ふと、キスってどんなもんなのかな、と思った。

実はオレ、ファーストキスまだなんです〜こう見えて実は水谷くん純情ボーイでした! って話じゃなくて。 今までに付き合ったどの女の子とも、自分からしたい、と思ってキスしたことはなかった。 あっちから告ってきて、あっちからキスを迫ってきて、あっちからもう耐えられない、とフッてくるのがいつものパターン。 そっちが勝手にすきになって、勝手に付き合ってるつもりでいたくせに。 女って身勝手だよな、そう話したら栄口は、 お前がちゃんと突き放してあげないのも悪いよ、と困ったように笑った。
その表情に、声に、唇に欲情した。栄口が男だなんてわかりきっているのに愛しくて、 どうしようもないもどかしい感情が、溢れて溢れて止まらなくて。
とん、と栄口のうしろの壁に手をついて、さかえぐち、と呼んだ。 緊張で声が少し裏返ったのがわかったけど、そんなの気にしてなんかいられなかった。 みずたに、とオレを呼ぶ声を遮って、オレは栄口の唇に自分の唇を重ねた。 栄口の目が驚いたように見開かれるのがわかった。 ぐ、と少し抵抗して弱々しく胸を押してくる栄口の手に、自分の指を絡ませた。 栄口は一瞬手を強張らせて、それからぎゅ、と握り返してくれた。
身勝手なのは百も承知だ。勝手にすきになって、勝手に欲情して。
それでも、優しく、強く、握り返してくれる手のぬくもりが嬉しかったから、

(キスって、こーゆーもんだったんだ)