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「なんなの…?」 AM8:22。 今日から冬休みだから、いつもならとっくに教室で着席してる(いや、たまに急いで坂道を走ってる)こんな時間でも、 あたしは毛布をかぶってドリーミングタイム! おやすみって、なんて素晴らしいのジーザス! …って、ゆったりまったり、 誰にも邪魔されずに過ごしてる……はず、だった。 「間違いメール、だよなぁ…」 ばっちりinドリームだったあたしを起こしたのは、最大音量の着信メロディ。(しかもゴイステ) だいすきな曲で目覚められるなんて、しあわせ! って、うっとりしてる場合じゃない!(むしろうっとりできる音量じゃない!) 「もしも君が泣くならば僕も泣く」? あたしが寝てんだからおまえも寝てろ! あたしは携帯をベットの角に放り投げた。 (…けど、)やっぱり気になってしまうのがあたしの短所。投げた携帯に手を伸ばし、もう一度目を細めて、眩しい液晶画面を見る。 「……ありえないっつーの」 冷めてる? 誰だそんなこと言うのは。 そりゃあ、期待したいのは山々ですよ。これが本当にあたし宛てだったら、狂喜乱舞しちゃうもの。 だけど現実は甘くないよ。これはどう見たって、間違いメールだとしか思えない。(明らかに) 「…いくらクラスメイトでも、」
「…これはないよなぁ…」 送り主は、老若問わず、恐ろしいほどに女子から絶大な人気を誇る野球部のエース、榛名元希。 そこらへんの女の子より遙かに整った顔をしてる。かと思えば、ヘタな男性芸能人より確実にかっこいい。 そんなやつから、こんなめっちゃ恋人宛てのメールが届くほど、あたしはすごくない。 しかもメアド交換したのはクラス替え直後、1度目の席替えでとなりになったとき。(かなり過去だよね) 2度目の席替えで離れてから、会話は疎か、あいさつすら滅多にしない仲なわけで。 (ちゃっかり「榛名くん」なんて登録してる自分が恥ずかしい…)(けど、消せない) 「…やっぱ間違いだって… 寝よ」 榛名くん、あなた絶対宛先間違ってるよ。 間違いメールじゃなかったら…? そんなこと、考えるだけで虚しい。 こんな俺様よろしくメールでも、ちょっと(いやかなりだったかも)ときめいちゃうなんて、あたしも末期かもしれない。 (…返事、しなくていいよね)(そのうち気付くって、きっと) あたしは枕に顔を埋めて、重い瞼を閉じた。 「……で、寝てたってか?」 「…はい」 「今朝、メール送ったよな、オレ」 「ですよねー」 「なのに、寝てたってか?」 「…すんません」 「返事こねーから心配したっつの」 「…ま、間違いメールじゃなかったんスか、」 「どこをどうみりゃ間違いメールに見えんだよ!」 「いや文頭から文末まで、ばっち間違いメールでし、た!」 「なんでに送ったのに間違いメールになんだよ!」 「ひょ、ひょひぇんひゃひゃひ!! (ご、ごめんなさい!!)」 いたいイタイ痛い!!ほっぺをつねらないで!! 榛名くんは、メールのとおり、本当にうちまで迎えにきた。(マジか!) きっとマトモ(?)な会話を交わしたのは月単位ぶり。たとえそれがこんな会話でも、ちょっとしあわせ感じちゃったりするあたし。 (だって恋する乙女だもん!)(うそ、キャラ違ったごめんなさい!) 目の前(というか、榛名くんが屈んでくれてる)にある榛名くんの顔に、思わず顔が熱くなって目をそらす。 「め、メールなんて、あたしら半年以上してなかった、し!」 「 、」 「めっちゃラブメールだっ、た……?」 …あれ? 榛名くんからの反応が、ない……。 「は、榛名く…?」 恐る恐る彼の顔を見ると、彼はあわてたように口をおさえて、 「すきなやつにメール送っちゃわりーかよ!」 と、……え? 「す、すきなやつ…?」 「〜っ、」 「……ま、マジ、です、か…」 「…大マジ!」 顔を片手で覆ったまま、榛名くんはその場にしゃがみこんでしまった。 きれいな黒髪からのぞく耳は、まっ赤、で。(夢、とか、)(言わないよね) 「も〜…オレ、めっちゃかっこわりーじゃん…」 間違いなんかじゃなかったわけで。 あたしが榛名くんをすきなのも、榛名くんがあたしをすきでいてくれたのも、ぜんぶぜんぶ、夢なんかじゃないわけで。 (かっこわるくなんかないよ、めっちゃかっこいいよ、)(なんて、言えない) 差し出したら、ぎゅ、と掴まれた手が、ほんの少し痛かった。 「……榛名、くん」 「……なに」 「榛名くんの行きたい、とこ、明日ちゃんと行きません、か」 「…あたりめーだろ」 「っ、 (この俺様エースめ!)」 榛名くんが、あたしの手をぐい、と引き寄せて、 2人のくちびるが重なったのは、一瞬。 その夜、あたしの携帯に届いたメールは、
間違いメールなんかじゃない、あたし宛てのラブメール、でした。 |