「なんなの…?」


AM8:22。
今日から冬休みだから、いつもならとっくに教室で着席してる(いや、たまに急いで坂道を走ってる)こんな時間でも、 あたしは毛布をかぶってドリーミングタイム! おやすみって、なんて素晴らしいのジーザス! …って、ゆったりまったり、 誰にも邪魔されずに過ごしてる……はず、だった。


「間違いメール、だよなぁ…」


ばっちりinドリームだったあたしを起こしたのは、最大音量の着信メロディ。(しかもゴイステ) だいすきな曲で目覚められるなんて、しあわせ! って、うっとりしてる場合じゃない!(むしろうっとりできる音量じゃない!)
「もしも君が泣くならば僕も泣く」? あたしが寝てんだからおまえも寝てろ! あたしは携帯をベットの角に放り投げた。
(…けど、)やっぱり気になってしまうのがあたしの短所。投げた携帯に手を伸ばし、もう一度目を細めて、眩しい液晶画面を見る。


「……ありえないっつーの」


冷めてる? 誰だそんなこと言うのは。
そりゃあ、期待したいのは山々ですよ。これが本当にあたし宛てだったら、狂喜乱舞しちゃうもの。 だけど現実は甘くないよ。これはどう見たって、間違いメールだとしか思えない。(明らかに)


「…いくらクラスメイトでも、」


2005/12/19 08:22
From:榛名くん
[件名]おきろ
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おっす 起こしちまったらごめんな
今日あいてね?つきあってほしいとこがあんだけど どーせヒマだろつきあえよ
ついでにおまえの行きたいとこ連れてってやる。昼メシはワリカンな
11時にむかえ行くから準備しとけ
じゃあな


「…これはないよなぁ…」


送り主は、老若問わず、恐ろしいほどに女子から絶大な人気を誇る野球部のエース、榛名元希。 そこらへんの女の子より遙かに整った顔をしてる。かと思えば、ヘタな男性芸能人より確実にかっこいい。
そんなやつから、こんなめっちゃ恋人宛てのメールが届くほど、あたしはすごくない。 しかもメアド交換したのはクラス替え直後、1度目の席替えでとなりになったとき。(かなり過去だよね) 2度目の席替えで離れてから、会話は疎か、あいさつすら滅多にしない仲なわけで。 (ちゃっかり「榛名くん」なんて登録してる自分が恥ずかしい…)(けど、消せない)


「…やっぱ間違いだって… 寝よ」


榛名くん、あなた絶対宛先間違ってるよ。
間違いメールじゃなかったら…? そんなこと、考えるだけで虚しい。 こんな俺様よろしくメールでも、ちょっと(いやかなりだったかも)ときめいちゃうなんて、あたしも末期かもしれない。
(…返事、しなくていいよね)(そのうち気付くって、きっと)
あたしは枕に顔を埋めて、重い瞼を閉じた。






「……で、寝てたってか?」


「…はい」
「今朝、メール送ったよな、オレ」
「ですよねー」
「なのに、寝てたってか?」
「…すんません」
「返事こねーから心配したっつの」
「…ま、間違いメールじゃなかったんスか、」
「どこをどうみりゃ間違いメールに見えんだよ!」
「いや文頭から文末まで、ばっち間違いメールでし、た!」
「なんでに送ったのに間違いメールになんだよ!」
「ひょ、ひょひぇんひゃひゃひ!! (ご、ごめんなさい!!)」


いたいイタイ痛い!!ほっぺをつねらないで!!
榛名くんは、メールのとおり、本当にうちまで迎えにきた。(マジか!)
きっとマトモ(?)な会話を交わしたのは月単位ぶり。たとえそれがこんな会話でも、ちょっとしあわせ感じちゃったりするあたし。 (だって恋する乙女だもん!)(うそ、キャラ違ったごめんなさい!)
目の前(というか、榛名くんが屈んでくれてる)にある榛名くんの顔に、思わず顔が熱くなって目をそらす。


「め、メールなんて、あたしら半年以上してなかった、し!」
「 、」
「めっちゃラブメールだっ、た……?」


…あれ? 榛名くんからの反応が、ない……。


「は、榛名く…?」


恐る恐る彼の顔を見ると、彼はあわてたように口をおさえて、


「すきなやつにメール送っちゃわりーかよ!」


と、……え?


「す、すきなやつ…?」
「〜っ、」
「……ま、マジ、です、か…」
「…大マジ!」


顔を片手で覆ったまま、榛名くんはその場にしゃがみこんでしまった。
きれいな黒髪からのぞく耳は、まっ赤、で。(夢、とか、)(言わないよね)


「も〜…オレ、めっちゃかっこわりーじゃん…」


間違いなんかじゃなかったわけで。
あたしが榛名くんをすきなのも、榛名くんがあたしをすきでいてくれたのも、ぜんぶぜんぶ、夢なんかじゃないわけで。
(かっこわるくなんかないよ、めっちゃかっこいいよ、)(なんて、言えない)
差し出したら、ぎゅ、と掴まれた手が、ほんの少し痛かった。


「……榛名、くん」
「……なに」
「榛名くんの行きたい、とこ、明日ちゃんと行きません、か」
「…あたりめーだろ」
「っ、 (この俺様エースめ!)」


榛名くんが、あたしの手をぐい、と引き寄せて、 2人のくちびるが重なったのは、一瞬。






その夜、あたしの携帯に届いたメールは、


2005/12/19 23:22
From:榛名くん
[件名]
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明日はちゃんと準備しとけよ
まちがいメールじゃねーからな
おやすみ


間違いメールなんかじゃない、あたし宛てのラブメール、でした。




It's not mistake!


(あたしの携帯のメモリーの「榛名くん」が「元希」に変わるのは、もうちょっと、あとのおはなし)