まだ小さいころ、空一面にきらきら輝くお星さまに願えば、どんなことでも叶うと信じてた。 でも、1番に望むものはどんなに願っても、叫んでも、絶対に叶わないと知っていた。







「なーなー、花井ー」
「なんだよ」
「これ、綺麗だと思わね?」


そう言って、田島が見せてくれたのは、お店に売っている割にはあまり食べる機会のない、


「…金平糖…?」


「ピンポーン、こんぺいとう」
「どうしたんだよ、この金平糖」
が、さっきくれたんだ!」
が?」
「そ。久しぶりっしょ、こんなの見んの」
「10年ぶりくれー」

「いいよ、食べても」
「え、オレはいいよ、田島がもらったんだろ?」
「いーって、だってさ、」
「?」


「まだこんなにあるんだ!」


といって、田島は服の中から(温まってそうな)金平糖が、たくさん入った袋を取り出した。


「うわ…軽く500はありそうな…」
「だしょ? だから、おすそわけ」


田島は「日本の伝統!!」と叫びながら、(うるさい)オレの手のひらに年の数だけ金平糖を置いた。 (これって伝統っつーか、節分だけだろ、田島)


「田島ももさ…」
「なに?」
「限度ってもん、知らねーよな」
「ひっでー花井! オレら、そんなにバカじゃねーって!!」
「バカとは言ってねーだろ……じゃ、いただきまーす」
「お、めしあがれーい」


溶けるように口の中で広がったのは、甘い、甘い、なんだか懐かしい味。 (そーいえば昔、んちで食ったっけ)


「あ、花井!」


みっつめの金平糖を口に入れようとしたとき、田島が叫んだ。


「これ、流れ星っぽくねー?!」


田島をみると、机の上(阿部の)にのって、金平糖を投げていた。 食いもんを粗末にするな、と、普段なら怒るはずのオレは、


「…あ、」


一瞬だけど、流れ星に見えたそれにみとれて、しまった。 (田島も、嬉しそうに笑ってるし、) 懐かしい、と感じたのは、小さいころ毎日のように部屋の窓から眺めていた星空を、想い出したからかも知れない。


「よーし! 三橋にも見せてくる!!」
「あ、 気ーつけて、な (やべ、みとれてた)」
「ほーい、いってきます!」


走って教室を出ていった田島が、(ぜってー転ぶぞ、あれ)大切そうに抱えた金平糖は、星屑みたいに、見えた。 何だか、嬉しくなって、田島がおいていった金平糖(100個はあるはずだ)を、ひとつだけ放ってみた。

(……きれい、って、こーゆーのを言うんだろーな、)


「  うわ、なにこれ立て付けわる…、 あずさー?」


間の抜けた、それでもよくとおる凛とした声でオレの名前を呼びながら(ドアへの文句もいいながら)(呼ぶな、って言ってんのに!)ガラ、とドアをあけて入ってきたのは、


「あ、
「あ、って…何やってんの?」
「んー…、流れ星制作?」
「へぇ、おもしろそう」
「やってみる?」
「うん!」


なつかしー、と嬉しそうに笑うは、あたりまえだけど、最後に2人で金平糖を食べたときよりも、ちょっと大人びていた。もっていた金平糖を半分渡そうと、触れた手のあたたかさに頬がゆるんだのを、ぐっとおさえて拳をにぎる。


「ね、ね、梓!」
「なんだよ、つーか梓ってのやめろ」
「こうやってみると、星屑みたいじゃない?」


(スルーかよ)(ま、ならいいけど)同じこと考えてたんだ、って、くすぐったい気分で、


「まーな」


って答えた。




最後のひとつは甘い、甘い、星の味がした。




(お星さまなんかに縋らなくたって、1番ほしいやつはこんなに近いよ)