今日は朝練がなかったから、1階にある学食でココアを買って飲んでた。(阿部は甘すぎてマズイって言うけど)んー、やっぱおいしいな! ココアはやっぱり森永だな! あ、これは明治だ(ごめんよ森永!)
久しぶりの朝練がないひとときを楽しんでいる、はたから見ればカワイソーなオレをよそに、予鈴の音が響く。 教室へ戻り始めるみんなの足音に急かされて、オレはゆっくり飲んで(吸って)たココアを急いで口に流しこんだ。
ごみ箱に空の紙パックを投げる。(ナイッシュー!)
予鈴がなってから授業が始まるまでの朝の5分って、かなり短い。 やっべ、あと4分じゃん! とか思いながら、かけ足で教室に戻ろうとしたそのとき、


「とーどーかーなーいー!」


下駄箱の方から、誰かの声が聞こえた。(あれは1年6組の方だ)
あと3分。オレはどうしても気になって、はやる心の中で自分にいいわけしながら、 (だってこんなギリギリに登校する人見たことないし)(ちょっと透きとおった感じの声がきれいで、)声のする方をのぞいた。
(今思えば、きっとこれは運命だった)(なんて、)

そこにいたのは、下駄箱の前でこれでもかってくらい背伸びをしてる、小さい女の子。 …あ、なんか見たことある後ろ姿。(確か、うちのクラスに来て篠岡と一緒にお弁当を食べてた) まっすぐなんだけど、ちょっとふわっとした黒髪がゆれる。思わず声をかけたら、


「……なにやってんの?」
「うわ! ご、ごめんなさい!」


謝られた。(え、なんで?!)
その顔がなんだかかわいくて、無意識にふにゃりと笑うと、彼女は、


「……うわばきが、とれなかったの」


と言った。


「うわばき?」
「うん、昨日ジャンプして入れたら、奥まで入っちゃって」
「わ、一番上なんだ (こんなちっちゃいのに)」
「…うん、」


背の順にしてくれればいいのにね、と彼女は笑った。(え、なに、)(なんかときめいたんスけど!) 熱くなってしまった頬をおさえながら、オレは一番上の段にある彼女のうわばきを取った。(あ、名前、ってゆーんだ)


「はい、」
「わ、ありがとう」


またまた、ふわりという効果音がぴったりな感じで笑うさんをかわいーなー、って思っちゃったりして、 (あややなんて比じゃないくらい!)やっぱ声もきれいだなーなんて思っちゃったりもして。


「あの! さ、」
「?」


「明日も、とってあげるよ!」


BGMは授業開始のチャイム。オレたちを待ってくれているのか、いつもよりほんの少しだけ、長く響いた(ように感じた)音が止んだ。
瞬間、さんはオレの手をにぎって、(わ、スペシャルイベントじゃん!)


「ありがとう!」


と走り出した。
オレの手を引っ張りながら、教室へ向かって階段を駈けのぼる小さな体。
きっとまた、ふわりと笑っているだろうと思ったら、ちら、と見えたさんの耳はまるでりんごみたいにまっ赤で、(繋いだ手は熱くって、)

それを隠すようにゆれるさんの後ろ髪が、



ふわ、ふわ、り。 (オレの顔もきっと、まっ赤だ)